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雪々急行鉄道は三城市の半公営鉄道、三城電気軌道の郊外線部門を前身とする。 | 雪々急行鉄道は三城市の半公営鉄道、三城電気軌道の郊外線部門を前身とする。 | ||
雪急発祥の地である三城市は、かつて三城国20万石の中心地であり、木工芸品や竹細工、菓子製造や陶業などが有名な歴史ある城下町であった。しかし、明治の廃藩置県以降、海外輸出をするような有力な産業を持たなかった三城市は衰退の一途をたどっており、元三城国城主家の末裔である三城氏を中心とした地元の有力者は、木工業で培った技術を生かして産業機械の生産を始め、積極的に企業の工場を誘致した。その結果、戦中には軍需産業も取り込み、三城は内陸の一大工業都市へと発展した。そして、この三城市の工業化を大いに助けたのは、「三城御水道（みつしろおみずみち）」とも呼ばれた、霧ノ湖を源とする湯霧川の水運であった。室町時代から続く湯霧川の水運は、豊富な水量と深さで流れも比較的穏やかなことから、三城国の物流を支える重要な輸送手段であり、三城市の工業製品の原材料の輸入、完成品の出荷も水運によって行われた。昭和の初め、多くの企業が工場が構える三城市から、比較的大型の船が付けられる中流の深雪ヶ原周辺まで、当時の三城市と地元の資産・実業家などの出資によって、普通鉄道路線が敷設される事となった。またこのルートは三城街道のルートと一致しており、それなりの旅客需要も見込まれたことから、三城電気軌道市内線の電気設備を増強して、全線電化・貨客両用の電車線の計画となった。 | |||
こうして1922年5月、大手道駅（現三城市駅）のから深雪ヶ原駅（現在の雪急 暮色町駅に近い、湯霧川西岸に有った旧駅。現在の深雪ヶ原駅の位置とは異なる）間で開業したのが、「三城電気軌道 郊外線」である。途中、牧場原駅、御剱神社駅（現在の御剱森駅）の2駅が設けられた他、駅間で住民から多く要望を受けた箇所に「乗降場」という簡易ホームの設置を認め、ホームからの挙手や乗客の申し出で電車が停車し、乗降客がいない際は通過していた。三城電気軌道の電力源は三城電気軌道市内線と同じく、湯霧川の堰に設けられた水力発電所により賄われていたが、電源容量には限りがあるため大型の電気機関車は導入できず、貨物列車には英国から輸入した蒸気機関車が使われていた。貨物中心の路線であったこともあり、開業当初のダイヤは、朝夕の通勤通学時間帯のみ4両編成が15分に1本（うち1時間に1本が正式駅にしか停車しない急行）で、その他時間帯は1時間に2本前後の運行だった。この少ない本数を補うべく、SL牽引の貨物列車へ簡易的にデッキ付きの2軸客車を連結して、駅通過時は減速して飛び乗り・飛び降りで乗降する簡易貨客列車も運行していたが、走行中の乗降行為はそこそこ危険だっため、1940年代には駅にきちんと停車する、ボギー客車の旅客SL列車を運行する事となった。 | |||
こうして1922年5月、大手道駅（現三城市駅）のから深雪ヶ原駅（現在の雪急 暮色町駅に近い、湯霧川西岸に有った旧駅。現在の深雪ヶ原駅の位置とは異なる）間で開業したのが、「三城電気軌道 | |||
そのほか、 | そのほか、 | ||
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=== 三蒼新線計画の浮上 === | === 三蒼新線計画の浮上 === | ||
そんな三城電気軌道に転機が訪れたのは1960年代後半、高度経済成長期真っ只中の三城市は急速な発展を迎えており、SLで貨物を輸送し、それを川船に乗せ換えて輸送するという現在の方式では製品材料・完成品の輸送が追い付かなくなっていた。 | |||
加えて、湯霧川の上流地域の森林伐採もあって川の水量が減少し、更に1973年に塗帆地方を襲った大型台風の影響で、川底に土砂が堆積して水深が浅くなったほか、堤防の決壊による浸水被害で、深雪ヶ原地域西岸の旧市街・船着き場周辺が大きな被害を受けた。結果、三城市の企業達は次第にトラックによる陸送に切り替えたが、騒音や排ガスによる公害や交通事故の増加、三城市街部を中心とする慢性的な道路渋滞などに悩まされることとなった。 | |||
そこで、三城電気軌道郊外線を改良・延伸し、当時塗帆地方最大の港であった、蒼風県の南蒼風港までの都市間路線を建設する計画が浮上した。そのルートは、従来の三城電気軌道郊外線の三城市から深雪ヶ原への既設区間を活用して、湯霧川に鉄橋を架橋して東へ進み、炉里河合市付近から少し南下、雪ノ関市の白狐橋まで新規敷設。その先は当時の箱日本国鉄が持てあましていた白狐橋貨物線（開業当初は旅客線だったが、需要低迷で貨物線化）を買収してさらに東へ進み、大規模な港の目の前、終点の国鉄南蒼風駅に至る路線であった。 | |||
しかし、いくら三城市に利する路線と言っても、莫大な額の建設費を要する都市間鉄道に公費を投入する事へ反対する声も大きく、この三蒼新線は半公営の三城電気軌道ではなく、民間企業からの出資で新たに私鉄を立ち上げる運びとなった。この計画に必要な資金は莫大で、当初なかなか大規模な支援者が現れなかったが、当時蒼風市で港湾貿易を営んでいた実業家の真冬 雪々が、この新規鉄道事業へ強い興味を示した。真冬自身も鉄道趣味があっただけでなく、鉄道を軸に周辺都市を育て、複合的に利益を生み出す鉄道事業への期待を持ち、真冬の実家である「蒼冬財閥」へと働きかけた。この際、単なる出資の提案だけでなく、蒼冬財閥が擁する塗帆地方の大手重工業メーカー「蒼冬重工」や、戦前から続く造船大手の「墨烏賊造船」と、三城電気軌道と関係の深い電気機器メーカーの三城電機工業や、三城電気軌道の自社用鉄道車両製造部門である「三電車輌製造」を引き合わせることにより、対外向けに鉄道車輌や設備製造を行う「雪急車輌製造」を設立するプランを提案。鉄道建設に始まる多角的な事業と車両製造業、二つの事業を軸に生み出される収益と経営上の安定性を訴え、無事に蒼冬財閥の全面協力を取り付けたほか、蒼風県を中心に展開する地元の大手銀行、蒼風國際銀行からも多額の新線建設費用の貸付を受けることに成功した。 | |||
こうして、民間資本による都市間鉄道会社「雪々急行鉄道」設立に向けた計画が動き始めた。 | こうして、民間資本による都市間鉄道会社「雪々急行鉄道」設立に向けた計画が動き始めた。 | ||
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5年間にわたる大工事の末、1980年5月1日、雪々急行鉄道本線が南蒼風～三城市間で開業した。軌間1060mmで全線複線、直流電化1500Vの都市間旅客・貨物両用鉄道である。 | 5年間にわたる大工事の末、1980年5月1日、雪々急行鉄道本線が南蒼風～三城市間で開業した。軌間1060mmで全線複線、直流電化1500Vの都市間旅客・貨物両用鉄道である。 | ||
しかし、開業後しばらくは好調だった客足も、開業後1年が経つ頃には当初想定の7割を割る程にまで低下していた。それもそのはず、1980年代は自動車による輸送が急激に発達するモータリゼーションの真っ只中であり、雪急開業に先立つ1979年に開通した三蒼高速自動車道（三蒼道）も追い風となって、高速路線バスや自家用車に通勤・通学需要を大幅に奪われていた。雪急は三城電気軌道時代の名残で、三城市を出て一旦湯霧川沿いを南下してから、90度向きを変え東の蒼風方面へ向かう線形だったのに対し、三蒼道は真っすぐ直線的に三城市から蒼風市北部の羽白市方面を目指しており、三蒼道に先だって建設が進んでいた蒼風湾岸都市高速道（蒼風湾岸線）に直結することで、市街へのアクセスが容易であった。 | |||
また1970年代には、戦前からの港である南蒼風港のキャパシティーが限界を迎えており、1977年には南蒼風の北側へ新蒼風港が建設され、それに伴った再開発事業によって大規模な人口移動が発生。同年の蒼風県庁の移転に見られるように、蒼風県の中心的な市街地は南蒼風港を有する蒼南市から、いくつかの町の合併で新たに誕生した、蒼風市の港湾部へ移転してしまっていた。よって、主要な乗客になると予想されていた通勤・通学客は思うよう獲得できず、旅客部門は営業成績の良かった貨物部門と、系列企業の雪急車輌製造の利益を食いつぶすように、赤字経営を余儀なくされた。 | |||
加えて、雪急は「急行鉄道」を名乗ってはいたが、速達性にもあまり優れてはいなかった。全線複線であるからと退避駅を少なく建設したため、通勤再速達種別の「急行」はもとより、特別料金まで徴収していた「特別急行」でさえ、緩行列車の退避・追い抜きが思うように行えず、所要時間の短縮は微々たるものであった。 | |||
そして、旅客部門の経営悪化に拍車をかけたのが、当時の経営陣に根付いていた「貨物第一・旅客軽視」の思想であった。元々の建設理由が三城市から南蒼風港までの貨物輸送であり、実際に貨物輸送部門の収益は良好であったが、建設に掛けた莫大な資金を回収し、継続的に融資を受けて設備更新をしていく為には、旅客輸送が必要不可欠であるという認識に欠けるものであった。その体制の悪い例とも言われるのが、着席保証列車の「特別急行」種別の列車であり、開業時に新製された一般通勤型の8000系電車の2扉ボックスシート版である雪急18000系電車で運行されたこの特急列車は、遅い・高い・値段の割に快適でない……と三拍子揃った不人気列車であり、朝夕の通勤時間帯でもほとんど乗客がおらず、さながら空気輸送となっていた。 | |||
=== 雪急大改革「ハチゴ―計画」 === | === 雪急大改革「ハチゴ―計画」 === | ||
雪急の開業から3年が経つ頃には、旅客部門の収支はますます悪くなっていた。この経営状況に危機感を覚えたメインバンクの蒼風國際銀行は、建設資金として貸し付けた融資の返済を急かし始め、追加の融資も難色を示しだした。このままでは資金繰りがますます困難になり、事業改善もままならずに10年以内に経営破綻するという試算も出される中、出資者の一人でもあり、雪急設立の立役者でもある真冬雪々が事態打開へ動きだした。真冬は自身の港湾貿易会社の経営権を大手外資系企業へ売り渡し、雪急の当面の事業改善資金を確保。自ら雪急の社長へ就任し、経営改善に向けて新たな事業計画を打ちだした。 | |||
それは、事業全般の大規模な見直しと追加投資を行い、1985年から1990年代にかけて経営を健全な状態へ回復させる、「ハチゴー計画」と呼ばれる経営改革案であった。 | それは、事業全般の大規模な見直しと追加投資を行い、1985年から1990年代にかけて経営を健全な状態へ回復させる、「ハチゴー計画」と呼ばれる経営改革案であった。 | ||
まず一つ目は、路線の始点の変更。当時の雪急本線は炉里河合駅から再度南へカーブして白狐橋駅を目指していたが、これを炉里河合からまっすぐ東へ新線を建設し、現在も成長著しい蒼風市の中心部への乗り入れを目指した。これに伴い、雪急本線は蒼風中央～三城市とし、南蒼風～炉里河合は雪急蒼南線と命名した支線へ転換することにした。 | |||
二つ目は、旅客サービス改善・観光需要の掘り起こしである。観光振興の起爆剤として、展望特急の9000系DeluxeExpressをデビューさせ、三城市駅で接続し、三城電気軌道時代に行っていた湯霧登山鉄道への直通列車を再開。蒼風中央から有名温泉地の湯霧温泉郷玄関口、湯霧湯本駅へ向かう、観光特急のイメージを打ち出した。なお、乗客から不評であった特急型の18000系は通勤型へ格下げし、急行や快速急行の一部列車に割り当て、特別料金の徴収を廃止した。これは後に、近郊型座席電車やライナー電車導入へのきっかけとなった。その他、旅客尊重主義の雪急社訓三ヶ条を定め、社員の研修や他社への視察を増加するなど、旅客へのサービス向上に努めた。 | |||
三つ目は速達性の向上。蒼風中央～深雪ヶ原間を複々線とすることを目指し、段階的にに土地買収を進めることで、速達列車を邪魔しない運行ダイヤを目指した。また、電源設備の面も強化され、車両のMT比を向上。駅間での高加減速化を図ったほか、新たな保安システムの開発により、営業最高速度を上げる目標を示した。 | |||
=== 苦難の新線建設期 === | === 苦難の新線建設期 === | ||
ハチゴー計画は、雪急の将来の為に必要な改革であったものの、やはり莫大な額の投資を伴う計画だったため、1990年頃にかけて非常に苦しい経営を迫られた。開業当初の借金を回収できぬままでの更なる投資は、一歩間違えば債務超過待ったなしの大博打であり、銀行からもリスク過大と評価されてなかなか融資は受けれなかった。真冬は自ら自宅や自家用車などの所有資産を売り払い、私財をほぼすべてつぎ込むなど、率先して改革に取り組む姿勢を見せ、社員に理解を求めた。 | |||
資金難の中、一番の課題となったのは新線用地の買収費用であり、怪しい格安土地買収の仲介業者（株式会社お父さん）に頼んだために、当時三城市にあった本社ビルを騙し取られる事件も起き、新たな本社オフィスを購入する費用すらもったいなかったため、各地の格安貸しオフィスに部署を分散させて、社長室と本社住所は、真冬が知人から5万円で譲り受けた廃墟のような狭小ビルに置かれていた時期もあった。 | |||
この時期、車両の新規設計費を削りつつ、利用者に新型車が導入されたかのようなイメージを持たせるため、増備分の8000系2次車を前面デザインだけ変えて同じ設計のまま誤魔化していた事は、雪急ファンの間でことに有名である。 | この時期、車両の新規設計費を削りつつ、利用者に新型車が導入されたかのようなイメージを持たせるため、増備分の8000系2次車を前面デザインだけ変えて同じ設計のまま誤魔化していた事は、雪急ファンの間でことに有名である。 | ||